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↑
このサイトから解説を私はこの記事に転用した。
↓
相続欠格とは
欠格事由と欠格の効果 民法891条
2017/09/25 08:00 7
遺言書を隠す。
↓
親・きょうだいを死に至らしめる。
↓
こういうよろしくない行動をとった人
↓
は、
相続人・受遺者になれないことがあります。
↓
今日は、
相続欠格
という制度について説明をさせて頂きます。
もしかしたら、
ミステリー小説のネタがひらめく方も居らっしゃるかもしれません。
1.相続欠格とは
相続欠格とは、
↓
一定の事情
(欠格事由)
がある場合に、
↓
相続人になる資格が
↓
当然に失われる制度です。
被相続人の意思がどうだったかは、
↓
基本的に関係ありません。
次回に説明する予定の「廃除」という制度とは異なり、
↓
相続欠格に当てはまる場合、
↓
裁判所の許可を得るまでもなく、
↓
いわば自動的に資格が奪われます。
欠格事由になる事情は、
↓
民法891条1号~5号に掲げられています。
【民法】
(相続人の欠格事由)
第891条
次に掲げる者は、
相続人となることができない。
一
故意に
↓
↓
又は
↓
相続について先順位
↓
若しくは
↓
同順位にある者
↓
を死亡するに至らせ、
↓
又は
至らせようとしたために、
↓
刑に処せられた者
二
被相続人の殺害されたこと
↓
を知って、
↓
これを
↓
告発せず、
↓
又は
告訴しなかった者。
ただし、
↓
その者に
↓
是非の 弁別がないとき、
↓
又は
↓
殺害者が
↓
自己の配偶者
↓
若しくは
↓
直系血族
↓
であったときは、
この限りでない。
三
詐欺
↓
又は
↓
強迫によって、
↓
被相続人が
↓
相続に関する
↓
遺言をし、
撤回し、
取り消し、
又は
変更すること
↓
を妨げ 者
四
詐欺
又は
強迫によって、
↓
被相続人に
↓
相続に関する
↓
遺言をさせ、
撤回させ、
取り消させ、
又は
変更
↓
させた者
五
相続に関する
↓
被相続人の遺言書
↓
を
偽造し、
変造し、
破棄し、
又は
隠匿
した者
以下、もう少し詳しく内容を確認してみましょう。
2.被相続人等の殺人(未遂)+受刑(1号)
民法891条に定められている
相続欠格事由は5つあります。
その一つ目は、
↓
「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡
するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた」という場合です。
(1)殺人又は殺人未遂
「故意に・・・死亡するに至らせ、又は至らせようとした」というのは、
↓
殺人(刑法19 9条)又は殺人未遂(刑法203条、刑法199条)のことを意味しています。
ここでは、
殺人の故意(殺意)が要件になっています。
傷害致死罪が成立するにとどまる 場合だと、
↓
相続欠格にはなりません
※ 暴行ないし傷害の故意しかない加害者が、
↓
結果的に人を死亡させた場合には、
↓
殺人罪は成立せず、
↓
傷害致 死罪が成立するにとどまります。
※ 暴行ないし傷害の故意もない加害者が、
不注意で人を死亡させた場合には、
(業務上)過失致死罪などが 問われるにとどまります。
(2)刑に処せられた
殺人又は殺人未遂に当たる行為
をしても、
↓
「 刑に処せられ」なければ、
↓
相続欠格にはなり ません。
例えば、
↓
その行為に及んだ当時に
↓
「心神喪失」の状態だったことを理由に
↓
責任能力が否定 されて、
↓
無罪判決が出た場合、
↓
「刑に処せられ」ていないことになるので、
↓
相続欠格にはなりません。
刑の
全部の執行
を
猶予されている人、
↓
執行猶予期間が
満了して
刑の執行を
受けなくて済んだ人(刑法27条)も、
↓
「刑に処せられた」わけではないので、
↓
相続欠格にはなりません。
というわけで、
↓
通常、
↓
相続欠格が問題になるのは、
↓
殺人又は殺人未遂
↓
に当たる行為をした 加害者が、
↓
無期懲役刑
又は
有期懲役刑
↓
に処せられた=刑務所に入った
↓
場合です。
(3)被害者
被害者として想定されているのは、
↓
1被相続人
↓
2相続について先順位にある者
3相続について同順位にある者
↓
のどれかです。
考えたくないことですが、
↓
長男のKさんが、
↓
父親であるNさんを殺害して、
↓
刑務所に入っ たと仮定します。
この場合、
↓
Kさんは、
↓
故意に
「被相続人」を死亡させ、
↓
「刑に処せられ」たことになの で、
↓
父親であるNさんの相続人になることは
↓
できません。
また、
↓
父親であるNさんを殺害して
↓
服役したKさんは、
↓
その後、
↓
母親であるHさんが
亡く なったときに、
↓
Hさんの相続人になることも
↓
できません。
母親のHさんの相続に関して、
↓
父 親のNさんは
↓
同順位の相続人
↓
だからです。
さらに、
↓
父親であるNさんを
殺害してしまったKさんは、
↓
後に
↓
妹のWさんの相続人になることも
↓
できません。
妹のWさんの相続に関して、
↓
父親のNさんは
↓
先順位の相続人
↓
だからです。
※ 相続法の世界でいう「順位」というのは、
↓
相続分が多いかどうかとは別の話です。
同時に相続人になるかどうか
↓
という話です。
↓
詳しくは、
以下の記事で説明しています。
(関連記事)
法定相続人の順位と相続分の計算
3.告発・告訴しない(2号)
民法891条に定められている
相続欠格事由の二つ目は、
↓
「被相続人の
殺害されたことを知って、
↓
これを告発せず、
又は
告訴しなかった」
↓
ことです(2号)。
(1)告訴と告発
「告訴」とは、
↓
犯罪の被害者や
その法定代理人
↓
などの告訴権者が、
↓
捜査機関に対して、
↓
犯人の処罰を求める意思表示をすること
です(刑事訴訟法230条以下)。
【刑事訴訟法】
第230条
犯罪により
↓
害を被った者は、
↓
告訴をすることができる。
第231条
1
被害者の法定代理人は、
↓
独立して
↓
告訴をすることができる。
2
被害者が死亡したときは、
↓
その配偶者、
直系の親族
↓
又は
↓
兄弟姉妹は、
↓
告訴をすることができる。
但し、
被害者の明示した意思に反すること
↓
はできない。
第232条
被害者の法定代理人が
↓
被疑者であるとき、
↓
被疑者の配偶者であるとき、
↓
又は
↓
被疑者の四親等内の血族
↓
若しくは
三親等内の姻族
↓
であるときは、
↓
被害者の親族は、
↓
独立して
告訴をすることができる。
「告発」は、
↓
同じく、
↓
捜査機関に対して
↓
犯人の処罰を求める意思表示をすること
↓
ですが、
↓
告訴権の有無を問わず、
↓
誰でも可能です(刑事訴訟法239条)。
【刑事訴訟法】
第239条
何人でも、
↓
犯罪がある
↓
と思料するときは、
↓
告発をすることができる。
なお、
↓
「被害届」
↓
を捜査機関に出しても、
↓
告訴・告発には
↓
なりません。
被害届は、
被害事実を申告する書面で、
↓
起訴や
処罰を求める意思表示をするもの
↓
ではありません。
(2)公訴権の発動
実際の殺人事件では、
↓
遺族が、
↓
「被害届」
は提出しているものの、
↓
「告訴」や「告発」は
↓
しないままであること
↓
が
珍しくありません。
そういう場合に、
↓
遺族は
↓
みんな
↓
相続欠格者になってしまうか
↓
というと、
↓
そんなことはありません。
告訴・告発
↓
の前に、
↓
検察官が起訴をする
↓
といった
↓
公訴権の発動
↓
があれば、
↓
民法891条2号を適用する余地はない
と考えられています
というわけで、
↓
民法891条2号が適用される場面は、
↓
なかなか想定できないと思います。
この2号を悪用して、
↓
黒幕が
↓
遺産を丸取りしようとする内容の作品がありましたが、
↓
どうあがいても
無理だったんじゃないかと思います。
※ 実際に
↓
2号の相続欠格が問題になる場面としては、
↓
1
遺産分割の協議・調停・審判の中で、
↓
相続人の一部 が、
↓
他の相続人に
↓
「あんた告訴・告発してないじゃん」
↓
と主張する場面か、
↓
2
共同相続人全員を
当事者とする
↓
相続権不存在確認請求
↓
の民事訴訟が起こされている場面
↓
が想定できます。
他の欠格事由
(民法891条1号、3号~5号)
とは異なり、
↓
2号は、
↓
告訴・告発しないという不作為
↓
が対象です。
ところが、
↓
いつまでに
告訴・告発しなければアウトなのか、
↓
法律には何も書いてありません。
上でも述べたとおり、
↓
そもそも、
↓
1・2の場面までに、
↓
公訴権の発動があれば、
↓
民法891条2号は
↓
適用の余地がありません。
仮に、
↓
公訴権発動
↓
前に、
↓
相続権不存在確認請求
↓
の
民事訴訟等
↓
が起きたのであれば、
↓
そのときに
↓
告訴・告発をすることも
可能なはずです。
結局、
↓
民法891条2号は、
↓
ほぼ空文化していると思います。
これを理由に
↓
相続欠格を肯定した裁判例は見 出すことが
↓
できません。
「民法IV 補訂版 親族・相続」 東京大学出版会・2004年
「こんな相続欠格事由は不適当なのでは」
↓
という立法論的批判も強いです。
注釈民法 26 相続 有斐閣
2016年
(3)免責
「その者に
是非の弁別が
↓
ないとき、
↓
又は
↓
殺害者が
↓
自己の配偶者
↓
若しくは
↓
直系血族であったとき」
↓
は、
相続欠格に
↓
当てはまらないことに
なっています
(民法891条2号ただし書)。
4.
詐欺又は脅迫による遺言妨害など(3号)
相続欠格の三つ目~五つ目は、
遺言に関連する不正です。
民法891条3号は、
↓
「詐欺又は強迫によって、
↓
被相続人が
↓
相続に関する
↓
遺言をし、
撤回し、
取り消し、
又は
変更する
↓
ことを妨げた」こと
↓
を相続欠格事由にしています。
(1)妨害
問題になっているのは、
①遺言の妨害
②遺言の撤回の妨害
③遺言の取消しの妨害
④遺言の変更の妨害
です。
こうした妨害行為を、
「詐欺」又は「強迫」によって
成し遂げることが、
相続欠格事由
↓
とされています。
ここでいう「詐欺」とは、
↓
相手を欺く言動をとって、
↓
錯誤(勘違い)させること
です。
「強迫」は、
↓
相手を
↓
肉体的・精神的に追い詰める言動をとって、
↓
畏怖させることです。
(2)「相続に関する」
条文に
↓
「相続に関する遺言」
↓
と書いてあるので、
↓
相続には関係ない内容の遺言
↓
(あるいは
↓
その撤回・取消し・変更)
↓
を邪魔しても、
↓
相続欠格にはなりません。
・相続分の指定
(民法902条、903条)
・遺産分割方法の指定
(民法908条)
・遺贈
(民法964条)
・認知
(民法781条2号)
などをする遺言は、
↓
「相続に関する遺言」
に含まれます。
例えば、
↓
単純に
↓
感謝、怨嗟の意を表するだけの遺言
↓
(あるいは
↓
その撤回・取消し・変更)
↓
を妨害しても、
↓
この規定には当てはまらない
↓
と考えられます。
5.
詐欺又は脅迫による
遺言強制など(4号)
「詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、
又は変更させた」というのが、相続欠格事由の4つ目です(民法891条4号)。
3号と同じく、「詐欺又は強迫」による不当な干渉を欠格事由としています。 問題になっているのは、やはり「相続に関する」遺言です。
という無理強いが対象になっています。
6.遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿(5号)
最後の欠格事由は、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠 匿した」ことです。
ここでも、問題になっているのは、「相続に関する」遺言書です。 以下の1~4の行為をすると、欠格事由に当てはまってしまいます。
1遺言をさせる
2遺言を撤回させる
3遺言を取り消させる
4遺言を変更させる
1遺言書の偽造 :被相続人名義の遺言書を作成すること(名義を偽ること)
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3遺言書の破棄 :遺言書を破く、燃やす、捨てるなど、その効力を消滅させる全ての行為
4遺言書の隠匿 :遺言書の発見を妨げるような状態におくこと
一応、注意すべき点を、次の(1)・(2)にまとめます。
(1)不当な利益を得る目的(二重の故意)が必要
上の1~4の行為をしていても、 不当な利益を目的としていなければ、相続欠格者になら ない可能性があります。
最高裁昭和56年4月3日第二小法廷判決(民集35巻3号431頁)は、遺言者の意思 を実現するための法形式を整える趣旨で偽造又は変造をしただけでは、相続欠格にはならな い旨を判示しました。
この判決を継承した最高裁平成9年1月28日第三小法廷判決(民集51巻1号184 頁)は、遺言書の破棄・隠匿をしても、相続に関して 不当な利益を目的としていなかったな ら、相続欠格者には当たらないと判示しました。
【最高裁昭和56年4月3日第二小法廷判決・民集35巻3号431頁】 「民法八九一条三号ないし五号の趣旨とするところは遺言に関し著しく不当な干渉行為 をした相続人に対し相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするに あることにかんがみると、相続に関する被相続人の遺言書がその方式を欠くために無効 である場合又は有効な遺言書についてされている訂正がその方式を欠くために無効であ る場合に、相続人がその方式を具備させることにより有効な遺言書としての外形又は有 効な訂正としての外形を作出する行為は、同条五号にいう遺言書の偽造又は変造にあた るけれども、相続人が遺言者たる被相続人の意思を実現させるためにその法形式を整え る趣旨で右の行為をしたにすぎないときには、右相続人は同号所定の相続欠格者にはあ たらないものと解するのが相当である。」
2遺言書の変造 :被相続人が自己名義で作成した遺言書に加除訂正その他の変更を加えること(名義で
はなく内容を偽ること)
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上記判例からすると、民法891条5号に規定されている各行為(偽造・変造・破棄・隠 匿)をするという認識を持っていることに加えて、 不当な利益を目的としていなければ、相 続欠格者にはなりません。
学説では、民法891条5号だけではなく、同条1号、3号~5号(2号以外)につい て、不当な利益を得る目的(二重の故意)がなければ相続欠格事由に該当しないとする説 と、そういう二重の故意は不要であるという説が対立しています。
(2)公正証書遺言の存在を告げないことは
遺言には、自筆証書遺言(自分で書く遺言)のほかに、公正証書遺言(役場で確認しても らう遺言)というものもあります。
公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されています。平成元年以降に作成された公正証 書遺言は、日本公証人連合会が、公正証書遺言を作成した公証役場名、公証人名、遺言者 名、作成年月日等をコンピューターで管理しているので、法定相続人等の利害関係人であれ ば、その存否を調べた上で、公証役場で謄本をもらうことができます。
公正証書遺言の正本を託されていた相続人が、他の相続人に遺言書の存在と内容を告げな いまま遺産分割協議を成立させた事案で、最高裁平成6年12月16日第二小法廷判決(裁 判集民173号503頁)は、遺言書の存在を知っている相続人が他にも居たこと、遺言執 行者が居たことなどの事情から、公正証書遺言の存在と内容を告げないだけでは、隠匿には 当たらないと判示しました。
7.「その他もろもろ」を包含する事由はない
【最高裁平成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号184頁】 「相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の 右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民 法八九一条五号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である。けだ し、・・・遺言書の破棄又は隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでな かったときは、これを遺言に関する著しく不当な干渉行為ということはできず、このよ うな行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁を課することは、同 条五号の趣旨に沿わないからである」
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相続欠格の事由は上に挙げた5つに限定されています。このどれかに当てはまる場合にだ け、相続人の資格が失われます。
例えば、離婚原因には、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5 号)というものがあります。具体的に類型化はできないけれど、離婚を認めていいといえる だけの事情を拾い上げているわけです。
相続欠格の場合には、こういう「その他もろもろ」を包含するような事由は設けられてい ません。基準としては明確だといえます。
8.受遺欠格-受遺者への準用(民法965条)
遺言によって、「受遺者」に財産を与える遺言者の意思表示を、「遺贈」といいます。
法定相続人ではない人も、「受遺者」になりえます。遺言者は、例えばNPOに遺贈をす ることも、愛人に遺贈をすることも、相続人に遺贈をすることもできます。
※ なお、相続人に財産を「相続させる」旨の文言が用いられている場合、特段の事情がない限り、遺贈では なく遺産分割方法の指定だと判断されます(最高裁平成3年4月19日判決・民集45巻4号477頁)。
遺言書で受遺者と定められていた人物が、相続欠格事由に当たる行為をした場合には、相
続人にも受遺者にもなれません(民法965条)。
9.相続欠格に当てはまることの法的な効果
(1)当然喪失と遡及効
民法891条1号~5号の欠格事由に該当すると、当然に相続資格が失われます。 相続が始まる前(被相続人が死亡する前)に欠格事由が生じていた場合には、相続が始ま
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った時点から、相続資格がないことになります。例えば、殺人未遂罪で服役した場合(1 号)や、被相続人が亡くなる前に遺言を無理強いした場合(4号)などです。
相続が始まった後(被相続人が死亡した後)に欠格事由が生じた場合には、相続開始時に 遡って、相続資格が消滅すると考えられています。例えば、被相続人が亡くなった後に同順 位者を殺害した場合(1号)や、遺言書を破棄した場合(5号)などです。
(2)代襲相続は可
相続欠格者が相続の資格を失っても、その子や孫は、代襲相続によって相続人になること
ができます(民法887条2項、3項)。
【民法】
(子及びその代襲者等の相続権)
第887条
1 被相続人の子は、相続人となる。 2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除に よって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑 属でない者は、この限りでない。 3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除 によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
これとは異なる取扱いをされるのが、相続放棄です。
相続放棄をすると、はじめから相続人とならなかったものとみなされます(民法939
条)。民法887条2項には何も規定されていませんし、これを準用するような規定もあり
ませんので、代襲相続は認められません。
逆にいうと、親が相続放棄をした場合に、わざわざ子も相続放棄をする必要はないという
ことです。
10.被相続人が許したとき(宥恕)
意見が分かれているのは、被相続人が相続人や受遺者を許した場合に、相続欠格(受遺欠 格)の効力が生じるかどうか(資格を回復できるかどうか)です。
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相続欠格が法律上当然に生じる条文構造になっていること、廃除とは異なり被相続人によ る取消権を認める規定がないことから、否定説も根強いです。
が、被相続人が殺害された場合は別としても、その他の場合には、宥恕による資格回復を 認めて良いという立場もあります。
ある文献には否定説が通説であると書いてあったり、また別の文献には肯定説が多数説で あると書いてあったりと、評価もいろいろです。なんでやねん。
広島家庭裁判所呉支部平成22年10月5日審判(家月63巻5号62頁)は、きょうだ い(同順位の相続人)を殺害して服役した相続人について、被相続人(父)が刑事裁判で寛 大な刑を求めていたこと、出所後の生活を案じていたことなどを踏まえ、被相続人が宥恕を し、相続人としての資格を有することを認めていたと判断しました。
【広島家庭裁判所呉支部平成22年10月5日審判(家月63巻5号62頁)】 2 相手方Fの相続人適格について 相手方FがJを殺害したことから、相手方Fは民法891条1号所定の者に当たる。 しかし、相手方Fは、昭和32年(小学1年生時)、交通事故に遭い、右脚の膝から 下の部分を失い、義足を使用して歩行することを余儀なくされるようになり、読み書き の能力が不十分である(特に漢字の習得がほとんどできていない。)など知的能力もや や劣る状態となったこと、Jは、上記のような障害を持つ相手方Fを無視したり、馬鹿 にしたりするような態度をとったりしたことから、相手方Fは、Jに憎しみを覚えるよ うになり、言い争いもたびたびあったこと、そのような経過を経た後の平成15年×月× 日、相手方Fは、酒に酔ったJから、「親父が死んでわれが死ねば、最低の葬式をし て、残った金はわしが使う。」などと言われて激高し、Jをナイフで何回も突き刺すな どして殺害するに至ったこと、被相続人Gは、相手方Fが被相続人G経営の呉服店を約 33年間にわたり手伝ってきたことを評価していた上、上記事件についてはJにも非が あったと思い、刑事裁判においては、相手方Fに寛大な刑が下されることを求め、ま た、服役後は、何回か刑務所を訪ね、障害を持つ相手方Fの出所後の生活を案じ、「心 配ないから。」と話すなどしたことが認められる。 上記認定事実によれば、被相続人Gは、遅くとも相手方Fが上記の刑務所に服役した ころには、相手方Fに対し、相手方Fを宥恕し、その相続人としての資格を有すること を認める旨の意思表示をしたものと推認される。したがって、相手方Fは、被相続人G の相続人としての資格を有するといえる。
11.相続欠格を主張する方法
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上で紹介した広島家庭裁判所呉支部の審判がそうだったように、遺産分割審判の中で、前 提事項として、相続人の誰かが相続欠格者に該当するかどうかを判断することは可能です。
遺産分割調停・審判とは別に、ある相続人について、相続人の地位を有しないことの確認 を求める民事訴訟を提起することも可能です。事件名は「相続権不存在確認請求事件」など です。この訴訟は、いわゆる固有必要的共同訴訟(みんなでやらないとダメな訴訟)です (最高裁判所平成16年7月6日第三小法廷判決・民集58巻5号1319頁)。
【最高裁判所平成16年7月6日第三小法廷判決・民集58巻5号1319頁】 被相続人の遺産につき特定の共同相続人が相続人の地位を有するか否かの点は、遺産 分割をすべき当事者の範囲、相続分及び遺留分の算定等の 相続関係の処理における基本 的な事項の前提となる事柄である。そして、共同相続人が、他の共同相続人に対し、そ の者が被相続人の遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えは、当該 他の共同相続人に相続欠格事由があるか否か等を審理判断し、遺産分割前の共有関係に ある当該遺産につきその者が相続人の地位を有するか否かを既判力をもって確定するこ とにより、遺産分割審判の手続等における上記の点に関する紛議の発生を防止し、共同 相続人間の紛争解決に資することを目的とするものである。このような上記訴えの趣 旨、目的にかんがみると、上記訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間 で合一にのみ確定することを要するものというべきであり、いわゆる固有必要的共同訴 訟と解するのが相当である。
遺産分割協議・調停等の後になって欠格事由の存在が判明したときは、相続回復請求(民 法884条)の問題になります。
(次回)
へ つづく